仙台高等裁判所 平成11年(う)114号 判決 2000年2月22日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役四年に処する。
原審における未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。
押収してある手工用切出一本(平成一一年押第一五号の1)を被害者Aに還付する。
理由
一 本件控訴の趣意は、仙台地方検察庁検察官検事戸田信久作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、弁護人木村和弘作成名義の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用するが、論旨は、事実誤認及び量刑不当の主張である。
二 控訴趣意第二の一(事実誤認の主張)について
所論は、要するに、原判示第三及び第四の各事実に関し、被告人は、同第三の窃盗の犯行を行ったが、その機会継続中に、逮捕を免れるために同第四記載の傷害に及んだものであるから、検察官が訴因として掲げていたとおりの事後強盗致傷の事実が認定されるべきであるにもかかわらず、原判示第四の行為が同第三の窃盗の機会継続中に行われたものではないから事後強盗致傷の事実は認められないとして、窃盗罪及び傷害罪の限度において罪責を認めた原判決は、証拠の評価を誤り、事実を誤認したものであって、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
そこで、当審における事実取調べの結果をも併せつつ、記録を精査して検討するに、原判示第四の行為が同第三の窃盗の機会継続中に行われたものとは認められないとする原判決の判断には賛同しがたく、所論は概ね正当である。原判決には所論指摘の事実誤認があり、破棄を免れない。以下、所論に即して判断を示すこととする。
そこで、まず検討するに、刑法二三八条の事後強盗罪が成立するためには、原判決説示のとおり、窃盗犯人が窃盗に着手し、又は既遂に達した後、その犯行の機会継続中に、同条所定の目的で暴行又は脅迫が行われることを要するものと解されるが、その窃盗の機会継続中に右の暴行又は脅迫が行われたか否かについては、同条の立法趣旨に鑑み、暴行又は脅迫がなされた場所的、時間的、人的関係などを総合的に判断の上、犯人が窃盗の犯行に着手し、又はその犯行終了後いまだ被害者側の追及から離脱することなく、これらの者によって直ちに財物を取り返されるか、あるいは逮捕される可能性が残されているなどの状況の下で右の暴行又は脅迫が行われたかどうかを検討して決すべきものと解される。
この点について、原判決は、原判示第四の犯行が同第三の犯行の機会継続中に行われたものとは認められないとし、その根拠として、(一)原判示第四の犯行は、同第三の犯行完了後約三時間経過後という相当の時間的隔たりがあり、その間に被告人が配線に細工をし、飲食や睡眠をとるなど、窃盗とは無関係の行動をする時間経過を経た時点であること、(二)被告人が、窃盗の犯行現場である原判示A(以下「A」という。)方に居続けたのは、逃走が不可能な状態にあったことから隠れた訳ではなく、誰にも見つかることなく容易に犯行現場から逃走できたのに、自分がたまたま家出中であったことから、単に当座寝泊まりする場所を確保するために天井裏に潜んでいたに過ぎないこと、(三)警察官の逮捕行為当時、原判示第三の指輪の窃盗の事実は被害者にも警察官にも一切判明していない状況にあったこと、(四)天井裏は構造上家人も頻繁に上がるような場所ではない上、物音を立てるなどしない限り天井裏に人が存在することは容易に判明するとは言えず、窃盗行為が行われた居室内と天井裏とは距離的には近接しているものの、隔絶した空間であると評価できることの四点を挙げている。
これに対して、所論は、(一)の点について、被告人は、窃盗の犯意を維持継続しつつ窃盗の現場にとどまったという本件においては、約三時間の経過があるからといって、窃盗の機会継続性を失わせるものではない旨、(二)の点について、事後強盗罪の成立には、窃盗犯人が窃盗の現場にとどまった事由は問うところではないのみならず、本件では、被告人が窃盗の現場にとどまり続け、本件指輪を窃取した後も、なお、被害者方で窃盗行為に及ぶ犯意を継続していたという事案であるから、逃走が可能であったか否かとか、天井裏に潜んだ目的を問題とした原判決の認定判断は、被告人が窃盗の現場にとどまった目的を問題としたこと自体誤っているし、その目的の認定においても誤っている旨、(三)の点について、刑法二三八条は、その成立要件として、暴行又は脅迫の相手方において、窃盗犯人が窃取した金品の内訳についてまで認識していることを要求していないのみならず、本件においては、A及び警察官は、被告人が何かを盗んだ窃盗犯人であることを明白に認識していたのであり、警察官は被告人にとって逮捕を免れる目的の障害となる者であった旨、(四)の点について、本件家屋、特に天井裏の構造や広さ、更には天井裏と居室との近接性等に照らして、本件の窃盗の現場と暴行の現場とは場所的同一性を有していると評価するのが合理的かつ自然である旨主張している。
そこで、まず右(一)の点についてみるに、原判決挙示の関係各証拠に、当審における事実取調べの結果をも併せ考えると、被告人は、平成一一年三月五日昼過ぎころ、原判示A方居宅に、台所のサッシ窓の内錠を外して入り込み、水道の水を飲んだり、台所の床に置いてあった卵二個くらいを飲み、テーブルの上にあった煎りゴマを食べ、四合瓶に入っていた焼酎を二口くらい飲み、テレビを点けてそのまま寝入り、午後三時ころ目が覚め、少しテレビを見た後の午後三時過ぎころから、現金等を盗もうとして家屋内を物色し、六畳寝室の南西角にある洋服ダンスの引き出しにあった指輪を取り出し、これを着ていたジャケットの内ポケットに入れて盗んだが、現金は発見することができなかったこと、被告人は、そろそろ家人が帰宅するものと考えたものの、行く当てがなかったことから、できれば数日間ぐらいこの家の天井裏に隠れていて、家人が出て行った隙に天井裏から出て食べ物などを盗んだりしようと思い、午後三時半過ぎころ、焼酎入りの四合瓶、水を入れた四合瓶、投光器様のコード付きライト、週刊誌、落花生など、その場にあった物を六畳寝室の隣にある六畳和室の仏間の天井から天井裏に運び込み、右ライトを梁に取り付けた上、電気の配線を切断するなどの細工をして右ライトを点灯させ、その場で焼酎を飲んだり落花生を食べたりしていたが、午後四時ころ帰宅したAにより、台所の窓や家の中の様子などから誰かが侵入し、かつ、いまだどこかに潜んでいるのではないかとの不審を抱かれ、午後五時半ころには天井裏を東西に移動するなどしたため、その物音などから泥棒が酒瓶を持込んで天井裏に潜んでいるものとAに察知されて警察に通報され、午後六時過ぎころ、天井の南西角付近で断熱シートを被って横になっていたところを、通報によって駆け付け、天井裏に入ってきた警察官らに発見されるに及び、逮捕を免れる目的で本件暴行の挙に出たこと、被告人が横になっていた付近の天井板に、被告人が切出でえぐって開けたと思われる五ミリ大の大きさの穴が、人の両目の間隔にほぼ合致する六ないし七センチメートルの間隔で二つ開けられており、被告人の居た天井裏から居室内の様子がのぞいて分かる状態になっていたことが認められる。以上によれば、被告人が本件窃盗の犯行を終えてから暴行脅迫を加えるまでに約三時間経過してはいるが、その間、単に飲食や睡眠をとっていたのではなく、家人に見つからないで、再度窃盗の犯行に出られるような用意もしていたものであって、被告人が、天井裏で配線に細工したり、飲食や睡眠をとるなどの行動にでているのも、いわば窃盗行為の延長線上の行為とも評価でき、本件窃盗行為と全く無関係であるとは言えず、かかる被告人の行為は、被告人が窃盗の犯意を継続しながら窃盗の現場にとどまっていたのであって、窃盗の機会継続性を失わしめるものではないということができるから、この点に関する原判決の判断には賛同することはできない。
次に、右(二)の点についてみると、被告人が、天井裏に潜んでいた目的が単に寝泊まりする場所を確保するためであって窃盗とは関係がないとする原判決の認定に誤りがあることについては、右(一)に関して説示したとおりであって、当時被告人にとって逃走が可能であったとしても、そのことが直ちに窃盗の機会継続性を弱めるものとも言えず、これを重視する原判決の判断にも賛同できない。
また、右(三)の点についてみると、刑法二三八条の事後強盗罪においては、暴行又は脅迫の相手方である被害者らが、窃盗犯人の窃取した金品の内容まで認識していることを同罪の成立の要件としておらず、窃盗犯人が逮捕を免れる目的などをもって暴行又は脅迫行為に及ぶことによって事後強盗罪が成立するものと解されるのみならず、原判決挙示の関係各証拠によれば、A及び警察官らは、逮捕行為に出た当時、被告人が家の中から何かを盗んで天井裏に潜んでいるとの限度では窃盗犯人であることを認識していたことが明らかであり、被告人が逮捕を免れるために暴行を加えたとする本件事案においては、窃盗の事実に対する認識は右の程度で足りると解されるから、原判示指輪の窃盗の事実が被害者にも警察官にも一切判明していないとしてこれを窃盗の機会継続性を否定する一事由とした原判決の判断も採用することができない。
更に、右(四)の点については、原判決挙示の関係各証拠に、当審における事実取調べの結果をも併せ考えれば、A方家屋は、南向きの木造モルタル平屋建て、トタン葺きの一般民家で、間口が約一〇・八メートルで奥行きが約六・三メートルの大きさであり、玄関が東側中央部に設けられており、そこから時計回りに、洋間、茶の間、六畳寝室、六畳和室、台所、浴室、脱衣場、便所の各室があり、最初の三室が南側に面し、その後の五室が北側に面している間取りになっていること、洋間の北側部分に観音開きの押入があり、その天袋部分の上部から直接天井裏に入れるような構造になっているが、被告人は、その場所からではなく、奥の六畳和室にある仏壇収納スペースの二つ折りになっている観音開きの押入部分から天井板を切断して容易に天井裏に上がっていること、天井板は厚さ約〇・三センチメートルの薄いベニヤ板一枚で、その上に断熱シートが敷き詰められてあるだけの構造で、被告人が寝ていた付近の天井板には、前記のぞき穴が二つ開けられていたこと、被告人が潜んでいた天井裏は暗くて狭く、物音を立てずに長時間潜むには不適当な空間であって、殊に天井裏で人が移動したりすれば、その物音が居間にいる者にも直ちに分かるような状況になっていたことが認められる。以上によれば、A方天井裏は、その構造に照らして、到底、人間が通常、長時間家人に気付かれずに居続けられるような場所ではなく、現に本件当時、帰宅した被害者が、さほど時間を経ることなく天井裏の物音などから、そこに人がいることに気付いていること、洋間の天袋は天井板を外して天井裏に出入りできるように作られているほか、被告人は、仏壇収納スペースの押入部分から天井板を破って容易に天井裏に上がっており、前記のぞき穴からは、常時、六畳寝室の様子をのぞくことができるようになっていることなどを考えると、天井裏が、原判決がいうような居室内とは隔絶した空間であるとはいえず、被告人が潜んでいた場所が天井裏であったことを、場所的接着性を否定する一つの論拠とした原判決の判断は到底採用することができない。
そこで、以上の点を考慮して窃盗の機会継続性の有無について更に検討するに、右にみたとおり、本件窃盗の犯行場所は、A方六畳寝室内であるのに対し、被告人が潜んでいた場所は、その部屋の真上の天井裏という、右犯行場所と一体としてAの管理下にある場所であって、前記のとおりの天井裏の広さや構造等に照らせば、窃盗現場との場所的な接着性は明らかである。また、時間的な接着性についても、窃盗の犯行後、約三時間程度経過しているとはいえ、その事情は前記(一)についての検討においてみたとおりであって、被告人は、本件窃取行為から一時間ほどした後に帰宅した被害者から、泥棒が侵入した形跡があり、かつ出ていった様子も窺われない状況を察知され、その後、天井裏の物音から天井裏に潜んでいるのを覚知されているのであって、本件窃取行為を終えた後においても、盗品である右指輪を所持しながら窃盗の現場であるA方居宅内にとどまり続け、その間更なる窃盗の犯意を持ち続けていたことなどを考えると、窃盗の犯行との時間的接着性があり、被告人が、被害者からの通報により駆け付けた警察官に対して暴行を振るった時点においては、いまだ被害者らの追及から離脱してはおらず、これらの者によって直ちに盗品を取り返されるか、あるいは逮捕される可能性が残されている段階にあったと言えるのであって、被告人によって警察官に加えられた本件暴行は、前記窃盗の機会継続中に行われたものと認められ、したがって、被告人には、本件公訴事実記載のとおりの強盗致傷罪が成立するものと解される。これと異なり、本件暴行が窃盗の機会継続中に行われたものとは認められないとして、強盗致傷罪の成立を否定し、窃盗罪および傷害罪が成立するものと認定した原判決には、事実の誤認があり、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の所論について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
三 そこで、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により、被告事件について、更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
罪となるべき事実は、第三として次のとおり認定するほか、第一、第二及び第四については、順次原判示第一、第二及び第五の事実のとおりである(ただし、第一の事実中「金杯ほか八点」とあるのを、「金杯一個、手工用切出一本(平成一一年押第一五号の1)ほか七点」と訂正する。)からこれを引用する。
第三 被告人は、同年三月五日午後三時過ぎころ、前記A方居宅内において、同人所有の指輪一個(時価約五〇〇円相当)を窃取した上、同家屋の天井裏に潜んでいたところ、同日午後六時一〇分過ぎころ、同人に気付かれ、通報を受けて臨場した宮城県佐沼警察署巡査乙山一郎ほか二名に発見されるや、その逮捕を免れるため、同天井裏において、持っていた前記第一記載の手工用切出で、右乙山の顔面などに切りつけるなどの暴行を加え、よって、同人に加療約三週間を要する顔面、左手、胸部切創の傷害を負わせた。
(証拠の標目)<省略>
(法令の適用)
被告人の判示第一の行為のうち、住居侵入の点は刑法一三〇条前段に、窃盗の点は同法二三五条に、判示第二の行為は同法二三五条に、判示第三の行為は同法二四〇条前段(二三八条)に、判示第四の行為は銃砲刀剣類所持等取締法三二条四号、二二条に、それぞれ該当するが、判示第一の住居侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条により一罪として重い窃盗罪の刑で処断することとし、判示第三の罪については所定刑中有期懲役刑を、判示第四の罪については、所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、最も重い第三の罪の刑に、同法一四条の制限内で法定の加重をし、なお、後記の犯情を考慮して、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で、被告人を懲役四年に処し、原審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用し、なお、押収してある手工用切出一本(平成一一年押第一五号の1)は判示第一の罪にかかる贓物で、司法警察員作成の捜索差押調書(乙)(甲第五〇号証)によれば、右物件は司法警察員が被告人を逮捕する際にその現場で被告人から差し押さえた物であって、被害者に還付すべき理由が明らかであるから(なお、右捜索差押調書(乙)一枚目表二行目に「被疑者不詳」と、また、同二枚目表の押収品目録の被疑者欄及び被差押人等の住所、氏名欄に「不詳」とあるのは、同調書中の「捜索差押の経過」欄の記載に照らし、現行犯人逮捕された被疑者の氏名等が不詳であるとの趣旨であることが明らかであるから、順次「被疑者・氏名不詳」、「氏名不詳」、「被疑者・氏名不詳」の誤記と認められる。)刑訴法三四七条一項により被害者Aに還付することとし、当審における訴訟費用については、同法一八一条一項ただし書により被告人には負担させないこととする。
(量刑事情)
本件は、被告人が、債務の督促が厳しいとして、これから免れようと家出をしたものの、行く当てもなく、生活費等欲しさから、留守の住居に侵入して現金一〇〇円及び金杯等時価合計約六八〇〇円相当の物品を盗み(判示第一)、また、同様に他人の住居内から現金五一五〇円及び時価合計約一二六〇円相当の物品を盗み(判示第二)、更に、判示第二記載の被害者方の無人の離れに密かに居続けようとしたところ、家人に見つかって追い出されたため、第一記載の居宅に至り、同人方居宅内において指輪を盗み、更に居宅内の物品を盗みながら同宅に居続けようとしてその天井裏に入り込んでいたところを家人に気付かれ、通報により臨場した警察官に逮捕されそうになるや、これを免れるために、警察官に対し、持っていた手工用切出で切り付けるなどの暴行を加えて傷害を負わせたという事後強盗致傷(判示第三)の事案及びその際右切出を不法携帯したという銃砲刀剣類所持等取締法違反(判示第四)の事案である。本件各犯行に至るいきさつないし動機については、債務の厳しい取り立てに耐えかねて家出をして行き場に困ったとはいえ、留守がちの住宅を狙って侵入窃盗を犯し、果ては、しばらくの間、食料等を窃取しながら寝場所にするべく天井裏に入り込み、家人に発見されるや、持っていた刃体の長さが約一三センチメートルもあって刃先が鋭利な手工用切出で所構わず切りつけ、逮捕しようとした警察官に傷害を負わせたもので、逮捕者に生命への危険性すらあったものであって、その態様は極めて危険かつ悪質である。その結果、逮捕しようとした被害者に対し、左胸脇は二針、左手は六針、左耳の後ろを一三針、顔面を八針縫うなどの傷害を負わせたばかりか、判示第三の被害者である家の持ち主に窃盗の被害のみならず天井板を破損して多額の経済的負担を負わせる等の付随的な被害を与えており、未だ被害感情も芳しくない。以上によれば、その刑事責任は重大である。
しかしながら、本件一連の犯行に至るについては、厳しい取り立てを受けていた債務の大半が他人の債務の保証人として負担したものであるなど、酌量の余地がないではないこと、奪った金品は多額とは言えず、物品については殆どが被害者に還付される見込であること、現在では本件各犯行を十分反省していること、窃盗の被害者二名及び傷害を負わせた被害者に対し、各三万円を弁償していること、天井板等破損の損害については、被害者自身は、その掛けていた損害保険によって弁償を受けていて、保険会社が被害者に代位して被告人に支払いを求めている状況にあること、被告人にはこれまで前科前歴がなく、原判決言渡し後、心因反応により急性錯乱状態に陥り病院で入院治療を受けたこと(なお、弁護人は、被告人が本件犯行当時心因反応により判断能力が極度に低下していた旨指摘しているが、被告人が、各犯行当時、刑事責任能力に影響があるような精神状態でなかったことは、原判決が「弁護人の主張に対する判断」の項において説示するとおりであり、原判決後再度被告人が同病名により入院治療を受けた点を加えてみても、前記のとおり、被告人が天井裏に上がっていたのは、単にその家に潜んで暮らそうと思っていただけではなく、家人の隙を狙って適宜家の中の食料等を窃取しようとの意図もあったもので、これも被告人の行動の合理性を裏付けるものであること、天井裏に上がってからの行動として、自分の寝る場所の側の天井板にのぞき穴を開けたり、天井裏の配線を切断して持込んだライトに直接接続して照明装置を設置していることも、状況に即した合理的な対応を示す行動と認められること、原判決後、被告人は、心因反応の病名により病院に入院しているが、当公判廷における受け答えの状況等からは、格別精神異常を疑うべき事情は窺われないことなどからしても、責任能力に影響を与えるものではない。)、今後の生活についても、被告人の家族らによる更生への助力が期待できることなど、弁護人指摘の被告人に有利な、ないしは同情すべき事情もあるので、これらをも総合考慮すれば、特に、被告人に対し、酌量減軽の上、主文の刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉山禎治 裁判官 千葉勝郎 裁判官 卯木 誠)